この記事は「相続シリーズ」全5回の第2回です。
- 「うちは大丈夫」が一番危ない!相続トラブルの実態
- 👉 こんなはずじゃなかった…実際にあった相続トラブル事例5選(この記事)
- 遺言書の種類と選び方|公正証書遺言がおすすめな理由
- 相続が発生したら?手続きの流れと期限を完全ガイド
- 元気なうちに始める相続対策|遺言・家族信託・後見制度
前回の記事で、相続トラブルの76%が遺産5,000万円以下の家庭で起きているという話をしました。
「数字はわかったけど、具体的にどんなトラブルが起きるの?」
今回は、実際に起きた相続トラブルを5つの事例でご紹介します。どれも「うちでも起きるかも…」と感じていただけるものばかりです。
※プライバシー保護のため、設定を一部変更しています。
事例① 実家の扱いで兄弟が絶縁 ─「売りたい兄」vs「住みたい弟」
背景
- 父が亡くなり、相続人は長男(55歳・東京在住)と次男(52歳・実家に同居)
- 主な遺産は自宅の不動産(評価額約2,500万円)と預貯金300万円
何が起きたか
長男は「実家を売却して、お金を半分に分けよう」と提案。ところが次男は20年以上実家に住んでおり、「ここを出るわけにはいかない」と拒否。
次男が「住み続ける代わりに、代償金として預貯金の300万円を全額渡す」と提案しましたが、長男は「不動産は2,500万円なのに300万円じゃ割に合わない」と不満。
結局、2年以上話し合いがまとまらず、兄弟は完全に絶縁状態に。最終的に家庭裁判所での調停にもつれ込みました。
どうすれば防げたか
遺言書で「自宅は次男に相続させる。長男には預貯金と生命保険金を渡す」と書いておけば、この争いは起きませんでした。
生命保険は受取人を指定できるので、遺産分割の対象にならず、長男にまとまったお金を渡す手段として有効です。
事例② 口座凍結で生活費が出せない ─ 専業主婦の妻が困窮
背景
- 夫が急逝(60歳)。妻は専業主婦(58歳)
- 家計は夫名義の銀行口座で一括管理
- 相続人は妻と子ども2人
何が起きたか
夫の死亡届が受理された直後、銀行が口座を凍結。妻は自分名義の口座にはわずかな貯金しかなく、食費や光熱費の支払いにも窮する事態に。
遺産分割協議書が完成するまで約4ヶ月かかり、その間の生活は子どもたちからの援助でなんとか凌ぎました。
どうすれば防げたか
遺言書で遺言執行者を指定しておけば、遺産分割協議を待たずに口座の手続きが可能です。
また、「仮払い制度」(各口座から法定相続分の1/3、上限150万円まで引き出し可能)もありますが、手続きに時間がかかるため、事前の備えが重要です。
妻名義の口座にも一定額を入れておく、という「日常の対策」も意外と大事です。
事例③ 戸籍を調べたら「知らない子」がいた
背景
- 父が亡くなり、相続人は母と長女(35歳)の2人…のはずだった
- 相続手続きのために父の出生からの戸籍を集めたところ…
何が起きたか
父の若い頃の戸籍に、認知した子どもの記載が見つかりました。
母も長女も全く知らない事実でした。
遺産分割協議は相続人全員の参加が必要です。1人でも欠けると協議自体が無効。見知らぬ「きょうだい」に連絡を取り、財産の分け方を話し合わなければなりません。
精神的なショックに加えて、相手の住所を調べるところから始める必要があり、手続きが大幅に遅れました。
どうすれば防げたか
遺言書があれば、遺産分割協議なしで手続きを進められます。認知した子にも遺留分(最低限保証される相続分)はありますが、少なくとも「全員で話し合う」というハードルはなくなります。
また、生前のうちに戸籍を確認しておくことも重要です。相続が発生してからでは、家族への精神的ダメージが大きくなります。
事例④ 10年間の介護が「ゼロ評価」─ 長女の悲痛な叫び
背景
- 母が亡くなり、相続人は長女(58歳)と次男(55歳)
- 長女は10年間、仕事を辞めて母の在宅介護を担当
- 次男は県外に住み、帰省は年に1〜2回
何が起きたか
遺産は自宅(1,500万円)と預貯金(800万円)の合計約2,300万円。
次男は「法定相続分は2分の1ずつだから、1,150万円ずつ分けよう」と主張。
長女は「私が10年間介護してきたのに、何もしなかった弟と同額?」と猛反発。
法律上、介護の貢献を「寄与分」として認めてもらうには家庭裁判所で主張する必要がありますが、認められるハードルは高く、認められても数百万円程度にとどまることが多いのが実情です。
どうすれば防げたか
母が遺言書で「長女に自宅と預貯金の7割、次男に3割」と書いておくだけで、この問題は解消されました。
お母様自身も長女の介護に感謝していたはずですが、「書いていない」以上、法律では何も考慮されません。
事例⑤ 共有名義にしたら「身動きが取れない」不動産
背景
- 父が亡くなり、相続人は兄弟3人
- 遺産は実家の不動産(3,000万円)のみ
- 「とりあえず3人の共有名義にしよう」と決定
何が起きたか
3年後、長男が「自宅を建て替えたい」と提案。しかし共有物の変更には全員の同意が必要。次男は賛成したものの、三男が「反対。売却して現金で分けてほしい」と主張。
さらに5年後、三男が亡くなり、三男の持分は三男の妻と子どもに相続。今度は5人の共有に。関係者が増えるほど合意形成は困難になり、不動産は完全に「塩漬け状態」に。
固定資産税だけは毎年かかるのに、誰も住まず、売ることもできず、ただお金が出ていくだけの状態が続いています。
どうすれば防げたか
そもそも不動産を共有名義にすべきではありませんでした。
- 遺言で「実家は長男が取得。他の兄弟には代償金を支払う」と決める
- 生前に売却して現金化しておく
- 家族信託で管理者を一人に決めておく
どの方法でも、「共有にしない」ことがポイントです。
5つの事例に共通すること
気づかれたかもしれませんが、5つの事例すべてに共通する解決策があります。
遺言書を書いておくこと。
- 事例① → 遺言で不動産の取得者を決めておく
- 事例② → 遺言執行者を指定しておく
- 事例③ → 遺言で分割方法を明記しておく
- 事例④ → 遺言で寄与を反映した配分を指定する
- 事例⑤ → 遺言で単独取得者を決めておく
遺言書は「争続」を防ぐ最も確実で、最もコストの低い方法です。
次回の記事では、遺言書の種類と作り方について詳しく解説します。「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」、どちらがいいのか?費用は?必要な書類は? 全部お答えします。
→ 次回:遺言書の種類と選び方|公正証書遺言がおすすめな理由
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